2013年6月19日水曜日

たけちゃんがお父さん。

メスぶたは、月一くらいで発情します。
野生の動物と違い、年中無休。
オスのほうは、メスさえ良ければいつでも大丈夫。
放牧場にはオス、メス一緒にいるので、受胎は、メスぶたの発情とのタイミング。
と言うわけで、暑い時期でも、子豚は生まれます。

空梅雨で暑い中ですが、6月にも仔豚が生まれました。
ひ弱な仔豚たち(ぶたの赤ちゃんは、家畜の中でも、とても虚弱な状態で生まれてくるそうです)には、寒いよりは良いようで、すくすく育っています。

今回の仔豚は、たけちゃん(2歳、オス)の初めての仔。
















たけちゃんの正式な名前(名号と言います)は、「バックアイハルノチロル 159-7-136582」なのですが、豚の場合特別呼び名があるわけではありません。
若い飼育員がたけると勝手に名付けて、呼んでるうちに、本人が「たける」とか「たけちゃん」とか呼ばれると寄ってくるようになり、そうすると他の従業員にも名前が定着し、1年たった今では、自他共に認めるたけちゃん。

たけちゃんは、平成23年9月生まれ、生後半年の24年3月に公園にやってきた大ヨークシャーの純潔種。

純潔種の豚を1元と呼びます。
この1元のオスに別の種、ランドレースの純潔種の1元豚を掛け合わせて生まれる混血の仔が、2元と呼ばれます。
大ヨークとランドの混血の2元のメスに茶色のデュロックの1元オスをかけ合せると、生まれた仔は、大ヨーク、ランド、デュロック3週類の混血で3元になります。
このぶたがお肉になって出荷されると、三元豚(サンゲントン)と呼ばれます。
たけちゃんは、店頭に並ぶ三元豚のご先祖、おじいちゃんになるべく育てられた種豚です。


うちの公園に来た当初、たけちゃんは、1頭づつ隔離された小さい長屋風の豚舎で育ちました。
1歳になれば受精の能力はできるので、昨年の秋、お日柄の良いころに、たけちゃんの部屋にメスをお迎えして、お見合いをしました。
ところが、うちの場合、お相手のメスがベテランぞろいで、大きい方ばかり。
その大きいおねえさんが、発情期を迎えているといっても、つれないそぶりを見せつつの恋の駆け引きを見せたりする。
ところが、まだ幼くて、その辺の機微に疎く、体格も劣るたけちゃんは、どうも気後れ気味で上手くいきません。
(まぁ、もう少し分かりやすく、具体的に言うと、たけちゃんが後ろに回って乗っかろうとしても、体が小さいので、嫌がる素振りのメスがでっかいお尻をブゥインと振ると、振り切られちゃう。
それでも頑張って乗っかったら、足が短くて目的地に届かないという、かなり切ない状況。)

たけちゃん、たけると可愛がられ、一頭きりで、エサの取り合いもない乳母日傘の一人っ子。
体格だけでなく、精神的にもまだ弱いところがあったのかもしれません。

その間じゅう、職員も獣医さんも、たけちゃんのところに集まって、励まし、叱咤しながら見守ったのですが、ちっとも上手くいかず、だんだんしょんぼりしてきて、取り囲んだ応援団を恨めしそうに見つめる始末(うそじゃないです、ホントにそう見えました)。
一回目のお見合いは失敗に終わり、まぁ、気を落とすなとギャラリーから慰められました。

その後、秋のうちに2回お見合いをしたのですが、残念ながらこれも上手くいきませんでした。

秋のお見合いは空振りに終わりましたが、冬になると、たけちゃんもちょっと大きくなったので、今後はあまり大騒ぎせず、たけちゃんとお相手のタイミングでことが運ぶようにと作戦を変更。
2箇所ある放牧場の東側に引越しさせて、2頭のメスと同居させました。
両手に花と、はた目にはうらやましい環境です。

ただ、一緒にいるメスは、たけちゃんよりずっと年上、体格もまだ、彼女たちのほうが大きい。
そして、このうちの1頭は、畜産センター公園きっての問題児。
同居のメスのえさをとる、けんかを吹っかけて追い回すと、気性が荒い。
どの豚も、優劣付けで、同じ柵に入った当初の小競り合いはありますが、普通は最初だけで、勝ち負けがついた後は、優劣の秩序でそれなりに仲良くやっていきます。
ところが、この姉さんは、まったく落ち着かない。
虫の居所が悪ければ、他のメスに、時を選ばず突っかかり、追いまわし、えさも食べさせない。
それほど体は大きくないのですが気が強く、相手が大きくてもお構いなし、ねじふせ、蹴散らしています。
最年長のお姉さんなのに、大人気ないったらありゃしません。

他の豚と同居は無理な豚なのですが、唯一、今一緒にいるメス豚はいじめない。
じつは、この2頭、同年同日にここで生まれているので、多分同じお母さんから生まれた姉妹です。
仲良くやれるのはそのせい、としか思いつかない。

とにかく、そんな凶暴なねいさんと同居して、オスとは言えまだ小柄、すっかりなめられ、いじめられ、肩身の狭い思いもし、脅威と孤独を感じたのか、飼育員にますますなつき、放牧場の一角にある豚舎の中にいても、たけると呼べばとことこ走ってやってくるようになりました。
我々が呼んでも走ってきますが、お客さんが呼んでもやってくる。
うちでは、一番愛嬌がある動物になりました。

それが春になり、遠足の団体さんが入り、呼べば答えるたけちゃんで、このシーズンをやっていこうと思っていた矢先、どうも彼の反応が鈍くなってきた。
我々が呼んでも、すぐに駆け寄ってこない時があり、そのうち完全に知らん振りされることもあり。

たけちゃんの異変には、みんな気づいていましたので、その原因について話し合ったところ、放牧場内の関係が落ち着いてきて、仲間と上手く言ってるから、あんまり人間には関心がいかなくなったのではないだろうかと言うことになりました。

つまり、たけちゃん彼女たちと上手くいってるんじゃない。
いよいよ恋の季節到来と言うのが我々の結論。
そして、今回の快挙.
それも、相手はきついほう、パチパチ。

われわれの予想的中、ぶたの気持ちが手に取るように分かる飼育員、こちらにも拍手貰って良いかな。

気がつけば、たけちゃんのおしりも何も、一回り大きくになりました。
がんばれ、たけちゃん。
ピンちゃんにびびらない、立派な種豚になってください。
恐いおねいさんは、分娩豚舎へ行って留守なのでのびのび