2014年10月16日木曜日

紳士なヤギ

食欲の秋、スポーツの秋、芸術の秋。
秋は、いろんなことで盛り上がりますが、うちのヤギは恋に燃える。

秋はヤギの繁殖期です。
うちで飼っているザーネン種と屋久島種のヤギは、秋にだけ、21日周期でメスが発情します。
(それとは違い、シバ山羊のように、秋に限らず、年中発情が来る種類もいます。)

春も夏も、オスの誘いに(オスはいつでもやる気はあります)つれなかったメスヤギが、秋、発情が来ると、その間2、3日、物凄く積極的になり、発情した猫と同じで、メー、メーと半日くらい物凄くうるさく鳴き続けます。
この声は、普段の鳴声とは明らかに違い、飼育員には発情が来たなとピンと来ます。

人間がわかるくらいですから、オスヤギがその兆候を見逃すわけは無い。
それに答えてオスのやる気もアップ。
やる気をアップしたオスは、ヤギ臭いにおいを全身から発散し、においで自分をアピール。
そのにおいでヤギだけでなくヤギ舎もヤギ臭くなります。
もう、ヤギ舎にやる気が充満。

この恋の季節、何月何日と決まってはいませんが、ヤギ舎から漂うヤギ臭さで、今年もヤギの発情の季節になったとなぁ、とわかる人にはわかります。

人間ならばあんまり香水臭いのは、はしたないと考えるオスもいますが、ヤギにはそういうデリケートな感性の持ち主はいないようで、匂ったもん勝ち。
自分のヤギ臭さがより強くなるよう、オスは自分のオシッコを体に塗りたくります。
飼育員の話だと、股間からスプレーで噴射したみたいに霧状のオシッコが出て、それが頭や足に付くと、さらにそれを体中に塗りたくるのだそうです。

いつもは白いザーネンが、この時期、オスだけ黄色っぽいのはオシッコを塗りたくっているせいです。
うひゃーと思いますが、ヤギのメスにとっては魅力的なんでしょう。
もちろん、うちの飼育員は、たとへ、オシッコまみれといえども、親切に接してはいます。
また、臭いを連呼しましたが、本当に不快で危険な匂いとは違う、ような気がすると言うことは申し添えておきたいと思います。

メスが発情するのは21日周期で三日間ですが、オスは、一旦火が点いた物は止まらず、望まれればいつでもOK、むしろおれの男の魅力でおまえを本気にさせてやるぜ、みたいなイケイケモードに突入し、秋じゅう休み無く臭い。

そんな恋する秋、当公園に、オスとの交配を希望するザーネンのメスヤギが、他所から連れられてきました。
もうすぐ2歳の仔なので、年齢的には十分成熟しています、しかし、21日に一度の発情時期で無いと交配は成功しません。
電話でお話を聞く限り、鳴き方が典型的な発情期のものとは違うような気がします。
うまくいかないかなの危惧はありますが、一度試してみたいと仰るので、ならばと佳き日の午後、うちの「さんたろう」とお見合いの運びとなりました。

やってきたメスヤギは、連れていらっしゃったご夫婦にとても馴れていて、旦那さんについて、素直に乗せられてきた軽トラックを降り、お見合い会場のヤギ舎の小部屋にすんなり入りました。
我々、知らない人間が近寄っても、ちっとも怖がら無い天真爛漫さ。

もともと、ザーネン種はオスと比べるとメスは小柄ですが、4歳になろうとするオスのさんたろうに比べ、まだ若いので、ふた回りくらいも小さい。
愛情いっぱいにのびのび育てられた、育ちのよいお嬢様なかんじのヤギです。
(育ちが良いわりに、名前は特に無くやぎと呼ばれているそうですが)

放牧豚舎では、メスが駄目よと言うのに、オスが、いいじゃないのと言い寄り、オスのしつこさに、メスがひどい悲鳴を上げると言うことが偶にあります。

ヤギのお見合いも、メスに発情がきていないと、オスに迫られてもメスは嫌がります。
もし、発情がきていないのに、体のでかいさんちゃんが、放牧豚舎のオスみたいな、強引でしつこい迫り方をメスにすると、ちいさいメスヤギが、さんちゃんにいじめられてるみたいで、飼い主さんが、心を痛められないか心配です。

とか何とか考えているうちに、さんちゃん登場。
メスの周りを回ります。
さんちゃんの体はアピールのオシッコを塗りたくっているので、全身が黄ばんでもうヤギ臭ムンムン、並みのメスなら、この男臭さにいちころです。
でも、お嬢ちゃんのほうは、さんちゃんの強烈アピールに、鳴いて応えもしなければ、そわそわして、誘って見せもしない。
むしろ、さんちゃんが背後に回ると明らかに嫌がる。
どうもさんちゃんのオトコの魅力はお嬢ちゃんには届いていません。

放牧場のオスはこんなときでも無理に迫り、強引に突撃するので、メスが悲鳴のような鳴声を上げたり、喧嘩見たいになることがあります。

小さなメスがさんちゃんにそんなことされたら嫌だなと思いながら経過を見ていたのですが、さんちゃんは一度背後から、ちょっと前足を掛けてみただけで、相手にその気が無いのを感じたのか、あとは知らんぷり。

情熱溢れる色とにおいにかかわらず、態度はとってもクール。
30分くらい、2頭を一緒にしていたのですが、もうあとはぜんぜん近寄りもしない。
放牧場のオスたちに、さんちゃんのつめの垢を煎じて飲ませてやりたい、などと古典的な言い回しをしたくなる紳士な態度に感心してしまいました。
武士は喰わね高楊枝。

さんちゃん、男前。

岐阜市畜産センター公園 奥村