パールが死にました。
来年24歳、午年の馬です。
2月23日月曜午後1時30分ころ、乗馬会の指導員さんから、パールが馬房で倒れて起き上がれないので、手を貸してもらいたいと電話をもらいました。
馬は、砂浴びをしようと、時折馬場で横になったりすることはありますが、普段は眠るときでさえ、立ちっぱなしです。
もし、横になり立ち上がれないと、筋肉が自重で圧迫されて壊死していきます。
人間で言えば床ずれのような症状ですが、600kg以上ある大きな馬の体では、症状はもっと重く進行も早い。
太ももあたりの大きな筋肉は、1日を待たず奥まで壊死し、そのため体が衰弱し、死に至ることになります。
ですから、転んでおきられないと言うのは、馬には命に係る危険な状態です。
厩舎に行くと、パールは、馬房から通路に前足を出して、しゃがみこんでいました。
通路に出した両前足が、ゴム製のマットにかかっているのですが、パールが立ち上がろうと踏ん張ると。そのマットがずれて、踏ん張りが利かないのではないかと言うことで、足の下敷きになっているマットを抜くことにしました。
パールが急に立ち上がらないように、一人が頭をかかえるように抱いて、反対側から3人でゴムマットを引き抜きます。
立ち上る拍子に足を踏まれたりすれば、ひどい怪我になるので、パールに近づかないようマットの先を多少へっぴり腰で引っ張っているためかもしれませんが、足二本乗っているだけで、重くてマットを引き抜くのに悪戦苦闘しました。
でも、パールはいつものおとなしい性格そのまま、4人の人間が群がっている間とても静かでした。
マットが外れると、暫らく静かに伏せていたパールが、蓄えた力を一気に吐き出すように前足を踏ん張り立ち上がろうとしました。
グワーと起き上がる瞬間、見ているこちらもイケー!!と声を上げましたが、後ろ足が踏ん張りきれない様子でそのまま横倒しに崩れ落ちました。
足元がすべると言う感じではなく、腰が抜けてしまったように見えます。
その後も、パールは、静かに力を蓄え、一気に立ち上がるを繰り返すのですが、軽自動車が横転するくらいの重量感で横倒しに倒れるパールは痛々しく、立てない姿を見ていると切なくなります。
それを4、5回繰り返したでしょうか、踏ん張る前足に後ろ足が付いていかないので、起き上がろうとするたびに、体が前へ前へ引きずられ、少しずつ馬房の外、厩舎の通路に出て行きました。
そして、通路で倒れこんだパールはもう、頭を起こしていることもできなくなり、足を放り出して横たわってしまいました。
公園事務所の奥の部屋には、市の畜産課があり、そこに市内の家畜農家を診療する獣医さんがいます。
獣医さんは、休日も、持ち回りで出勤されます。
お休みはお昼までで帰られますが、この日は午後まで残ってらっしゃたので、様子を見ていただきました。
獣医さんは厩舎に行くと、パールのお尻のほうに回ってまず尻尾を触わりました。
尻尾に力がなくダランとしていて、これは腰をひどく痛めている兆候なのだそうです。
そのあと伸びている後足をさすりながら伸ばしてやると、もう一度立ち上がろうとしました。
しかし、後足が踏ん張れず、またバランスを失い倒れこみました。
首を起こすこともなく、横倒しに倒れたまま、起き上がる気配はありません。
放心したように横たわったまま。
時折、苦しそうに荒い息を吐くことはありましたが、騒ぎもせず、暴れることもなく、立ち上がることだけに集中し、最後まで気性の優しい、大人しい馬でした。
直接の死因は、腰椎骨折。
もしかすると最初に転倒したときに腰を痛めたかもしれません。
馬の23歳はもう高齢で、体力が衰えているからちょっとしたことがきっかけで死んでしまうことになるようです。
パールが何度も転倒するのを見ていると、あの大きな体を支えて立ち続けるのは、それだけで、相当体力やバランス感覚のいる行為のようです。
ああいう大きな動物は、体を支えられなくなればそこで終わりと言う、厳しいバランスの上を生きているのだなと思いました。
温厚で、来園のお客様が初めて触れ合うのに最適な馬でした。
午年の来年の活躍を期待していただけにとても残念です。
岐阜市畜産センター公園 奥村