2013年8月14日水曜日

牛の素

8月9日金曜日、うちのオスの黒毛和牛、
 「学(まなぶ)」を岐阜関家畜市場に出荷しました。

牛舎と放牧場以外の世界を知らない学君をトラックに載せるのに一苦労。
トラックまでは、手綱に引かれて、わりあい大人しく来たのですが、トラックの前で足を踏ん張って立ち往生。
トラックへ上がるスロープを前にしてびくともしません。














学の顔には「無口」と言うヘッドギアみたいなものをつけ、そこへ手綱を繋いであります。
この手綱を引いて誘導するのですが、生後8ヶ月とは言え280kg、嫌だと踏ん張られれば、手綱を引っ張ってもびくともしません。
そこで、一人が引っ張り二人でお尻を押す。
すると、緊張したのか、学、うんこする。
二人ワッと飛びのく。
でも動かないので、もう一回お尻を押す。
てこでも動かない様子に、思わず、肩を当てて全力で押す。
肩にウンコがついてワッと飛びのく。

手綱を引っ張り、お尻を押し、足を持ち上げ、何とか前足二本をスロープに載せて…。
ヨシッ観念して後ろ足も乗せてくれるかと思うと、そうはいかない。
無理に押して、嫌がられて、よれてスロープから落こっちゃったら怪我するしと躊躇った途端、後退されて振り出しに戻る。

何度かそれを繰り返し、もうしょうがないので、トラックについているウインチでゆっくりと手綱を引いてもらうと、そろりそろりと、でも確実にスロープを登ってトラックに積み込まれました。
今日は、市場に出荷される農家さんの輸送用のトラックに便乗させてもらったので、スロープが使えて、ウインチにも助けられてやれやれです。
肩についたウンコは、泥がついた感じで臭くないので着替えず市場に向かいました。(注1)













9時に市場に到着、すでに繋がれている仔牛もいますが、ピークはこれから、本日の予定は、330頭です。

市場の出荷場は、トラックの荷台の高さと合わせてあり、そこへトラックを横付けできます。
うちの学は、なかなか荷台から出てきませんでしたが、動かなくなるだけで逃げ出したりしないので、載せるときよりは幾分楽でした。















出荷前に貰った番号に従い所定の場所に係留するのですが、慣れないとこの結び方が難しい。
と言うわけで、搬送をお願いした農家さんに係留もお願いしました。
牛を連れてきた人はみんな、係留のために横に渡した上下二段のさおの下のさおの方へクルクルと手綱をまきつけ、ギュッギュッと綱をしぼり、さおの近くに牛の鼻面を寄せると、二段のさおに手綱を絡めチャチャチャッと結ぶと、もう牛がどんなに動いても結び目は緩みません。
今後のために、結び方を覚えようとあちこちみて回りましたが、手早すぎてよく分かりませんでした。

市場内をみて回っていると、我々が3人で、それなりにてこずった牛の誘導をなんと一人で3頭一度にやっている人を見かけました。
さすがにそんな人は他には見かけませんでしたが、出荷の様子を見ているとあきらかに大人しく従順に引かれていく仔を見かけます。
あれは多分、小さいうちから手綱を使って引いて歩いて訓練しているんじゃないかと我々の意見が一致。
今度の仔は、仔牛のうちに馴らしておいてもう少し楽に、ウンコも付けられないように積み込みが出来るよう、訓練しようかと話し合いました。


今回「学」を出荷するのは、素牛(もとうし)市場。
1歳未満の仔牛が、出荷される市場です。
生年月日を配布された出荷リストでみると、昨年の10月~12月に生まれた仔牛が出荷されています
ここで、買い取られた仔牛は、これから1年以上「肥育」されその後出荷されます。
中には、繁殖牛として育てられる牝もいます。

学は雄牛なので、競り落とした農家さんのところで肉牛として肥育され、肥育された地方の産地のブランド牛として育てられます。(注2)
離乳し乳離れができた仔牛をこの素牛市場で購入し、これからが本格的な肉用牛の肥育の開始です。
仔牛は牛の素と言うことで、素牛(もとうし)と言っているんだろうと、思います。













出荷される素牛たちは、9時前には出揃います。
せり落とそうと市場にやってくるせり人たちは、市場で配布されるせり市名簿(注3)を並んでいる牛と照らし合わせながら、360頭の中から自分の競りたい牛に目星を付けます。

本番のせりは、とても速いテンポで進行します。
せりにかける1頭当たりの時間は、1分はありません。
その短い時間で、1頭平均50万円強の買い物を何頭もします。
本番で、この仔にしようか考え込んで、躊躇っていたら1頭もせり落とせないで終わり。
事前の入念な目利きが勝敗を決します。













出荷者のほうは、せりに上がるまで、牛の手入れをします。
皆さん、洗車に使うバケツみたいなものに2.3種類のブラシを入れて持ち歩き自分のところの牛のお尻の周りのウンコをふき取り(たいていの牛はお尻にうんちをつけていますが、たいがいの人の肩にうんちは付いていません)、ブラシをかけ、タオルで仕上げてと熱心に牛の手入れをしています。
やはり見た目も値段に影響するようで、ウンコの付いた仔より、ウンコの付いてない仔の方が値が付く、らしいと、聞いたような気が、する。













今回のせりの結果は、ページでご覧いただけます。
https://jaccnet.zis-ja.com/d1110000000/d1110300000/422/results.html?ssl=1
うちの学は、平均の514,366円よりいくらか良い値段で買っていただけました。
ありがとうございました。

(注1)
週明けに、うんちがついたけど、それほど臭くないねとみんなの前で話したら、飼育員女子中心に、肩にウンコ付けておいて、そんな訳は無い。
鼻がどうかしちゃったんじゃないか。
はては、匂わないのは、自らの、年齢を重ねたことにより発生すると言われる類の特有の匂いと相殺されて気がつかなかったんじゃないか。
など、厳しいツッコミがありました。
たまたま手伝ったときに、ほんの少しついたウンコで、牛のウンコ全体を語ってはいけないなと、今は反省しています。

(注2)
飛騨で育てれば、飛騨牛、神戸で育てれば神戸牛というような言い方をしてしまっていますが、ブランド牛を名乗るには、ホントはもっとハードルが高いです。

たとえば、飛騨牛の場合
「飛騨牛銘柄推進協議会登録農家制度にて認定・登録された生産者により
14ヶ月以上肥育された
黒毛和種の肉牛のうち、
(ここまでは生きている『ひだうし』)
社団法人日本食肉格付協会が実施する牛枝肉格付により
肉質等級5等級・4等級・3等級と格付けされたものであることを協議会事務局が確認し、認定したものとする。
(肉質の判定なので、これは店頭に並ぶ『ひだぎゅう』」

と言う具合に、産地であっても高い肥育の技術を保てると認められる農家さんが一定期間以上以上育てた牛の肉で、肉質が高いものに与えられるブランド名である。
という補足を入れさせていただきます。

(注3)
せり市名簿には、それぞれの仔牛の出荷される順番、性別と出荷者などに加え、父牛、母牛の名前も載っています。
また、育種価といって両親から遺伝で伝わるよい肉質の指標(?????…、多分、両親から受け継ぐ将来よい肉質になりやすい遺伝の指標だと思います)が記載されています。
父牛については県有種雄牛予測育種価と正確度の一覧表という表も添えられています。
ブランドの和牛を育てるには、サラブレッドと同様血統がものを言うようです。
こういった、素人にはよく分からない資料を読み込み、いかに有望な素牛を適正価格で手に入れるかが、腕の見せ所。
素牛をせってみたい方はこちらを参考にしてください。
http://zookan.lin.gr.jp/kototen/nikuusi/n222_4.htm